。それでもやはりちょっとした敵意や不平顔をつづけた。しかしもう彼らの間には、なれなれしい様子はなくなっていた。たがいに黙っていた。各自沈黙のうちに、おのれの恋愛を建設するのに忙しかった。
 愛には不思議な溯及《そきゅう》的な作用がある。クリストフはミンナを愛してると知った瞬間に、同じくまた、前から常にミンナを愛しているのだと知った。三か月以前から、彼らはほとんど毎日のように顔を合わせていたが、彼はその愛を夢にも気づかなかった。しかし今や彼女を愛しているので、過去未来永久に彼女を愛してるのだと、どうしてもならざるをえなかった。
 だれを[#「だれを」に傍点]愛してるかをついに発見したのは、彼にとっては安心だった。彼は実に久しい以前から、だれをとも知らずに愛していたのである。彼の安堵《あんど》はあたかも、全身的な漠然《ばくぜん》とした不安な病気に悩んでる病人が、その病気がしだいにはっきりしてきて、一局部に限られた鋭い苦痛となるのを見るようなものだった。一定の対象のない恋愛くらい破壊的なものはない。それはあらゆる力を腐蝕《ふしょく》し溶解する。しかしはっきりわかってる情熱は、精神を極度に緊張
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