しかし心の中では、「あっちへ行らっしゃい、あっちへ行らっしゃいよ!」とぶつぶつ言っていた。するとついに、扉がまた閉《し》まって自分の夢想を味わいつづけることができた。彼女は懶《ものう》い無我の境にはいっていった。眠りかけると、嬉しくって飛び上がった。
「私を愛してるわ。……嬉《うれ》しいこと! 愛してくれるなんて、なんとやさしい人だろう!……私、ほんとに好きだわ!」
 彼女は枕《まくら》を抱きしめた。そしてすっかり寝入った。

 二人がまた初めていっしょになった時、クリストフはミンナの愛想よいのに驚かされた。彼女は彼に挨拶《あいさつ》をし、ごくやさしい声で、機嫌《きげん》はどうかと尋ねた。おとなしい慎《つつ》ましい様子でピアノについた。まったく従順な天使だった。意地悪な生徒らしい悪戯《いたずら》を、もう少しもしなかった。クリストフの意見にかしこまって耳を傾け、それが正しいことを認め、一つ間違いをしても、みずから自責の声をたてて、それを直そうとつとめた。クリストフには少しも訳がわからなかった。彼女はわずかな間に、驚くべき進歩をした。ただにひくのが上手になったばかりでなく、音楽が好きになっ
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