、ただケリッヒ夫人がいるからだと思い込んでいた。
 彼は引きつづいてミンナにピアノを教えていた。一週に二回、朝九時から十時まで、音階と練習とを監督してやった。二人のいる室はミンナの研究室《スチューディオ》だった。不思議な勉強室で、この少女の頭脳の奇妙な乱雑さを、おかしなほど忠実に反映していた。
 テーブルの上には、猫《ねこ》の音楽家ら――一そろいの管弦楽団――の、あるいはヴァイオリンをひいてるのもあれば、あるいはチェロをひいてるのもある、小さな像が置いてあって、そのほか懐中鏡、化粧道具、文房具、なども整然と並べてあった。棚の上には、しかめ顔をしたベートーヴェンや、大黒帽をかぶったワグネルや、ベルヴェデールのアポロンなど、音楽家らのごく小さな胸像がのっていた。暖炉の上には、葦《あし》のパイプをくゆらしてる蛙《かえる》のそばに、紙の扇があって、その扇面にはバイロイトの劇場が描いてあった。二段になってる書棚には、リュープケ、モムゼン、シルレル、ジュール・ヴェルヌ、モンテーニュ、などの著書と、家なき子[#「家なき子」に傍点]とがあった。壁には、シクスティーヌの聖母とヘルコメルの絵との大きな写真
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