まった。彼女は彼の困惑を面白がった。
 彼はすっかりまごついて口ごもった。ケリッヒ夫人は彼を助けて、お茶を出しながら話頭を転じてくれた。
 夫人は親しげに日常のことを彼に尋ねた。しかし彼は心が落着いていなかった。どうすわっていいかもわからないし、引っくり返りそうな茶碗《ちゃわん》をどうもっていいかもわからなかった。水や牛乳や砂糖や菓子を出されるたびごとに、急いで立ち上がって、丁寧にお辞儀をしなければならないような気がした。しかも、フロックやカラーや襟飾りなどの中に、しめつけられ堅くなって、甲羅《こうら》の中にでもはいったようで、右にも左にもふり向くだけの元気がなく、また実際ふり向くことができず、ケリッヒ夫人のやたらな質問や、その繁多な作法に、すっかりおびえてしまい、ミンナの視線が、自分の顔立や手や動作や着物に、じっと注がれてるのを感じて、すくんでしまっていた。さらに彼女らは――ケリッヒ夫人はそのくだくだしい言葉で――ミンナは面白半分に媚《こび》を含んだ流し目を使って――彼を気楽にさせようとしていっそう彼をどぎまぎさせた。
 ついに彼女らは、お辞儀と単語をしか彼から引出しえないので、諦《
前へ 次へ
全221ページ中135ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング