とが、たがいに永《なが》く他人となってしまうことがある。
でクリストフは、自分が通っている危機にたいする一の支持を、母の愛情のうちに見出せなかった。そのうえ、他を顧る暇のない利己的な情熱にとっては、他人の情愛がどれだけの価値をもっていよう?
ある夜、家の者は皆眠っていたが、彼は一人室の中にすわって、何にも考えもせず、身動きもせず、危険な考えの中に膠着《こうちゃく》していた。その時、ひっそりした小さな街路に足音が響いて、そして戸をたたく音に、彼ははっと我に返った。はっきりしないささやきの声が聞えた。彼はその晩父がもどっていなかったことを思い出し、往来のまんなかに寝てるところを見つけられた先週のように、やはり酔っ払った父が連れて来られたのだと、腹だたしく考えた。メルキオルはもう少しも行ないを慎《つつし》んでいなかったのである。彼はますます身をもちくずしていた。そして他の者なら死んでしまってるかもしれないほどの放埒《ほうらつ》と不摂生にも、彼の頑強《がんきょう》な健康は害されないらしかった。彼はやたらに大食し、ぶっ倒れるまでに暴飲し、冷たい雨に打たれながらいく晩も外で明かし、喧嘩《けんか》をしては殴《なぐ》り倒され、しかも翌日になると、いつもの調子になって陽気に騒ぎたて、周囲の者も皆自分と同じように快活になることを求めていた。
ルイザはもう起き上がっていて、急いで戸を開きに行った。クリストフは身動きもせず、耳をふさいで、メルキオルの泥酔《でいすい》した声や、近所の人たちの嘲笑《ちょうしょう》的な言葉を聞くまいとした……。
突然彼は、言いがたい懸念《けねん》にとらえられた。恐ろしいことになりそうだった。……とすぐに、悲痛な叫び声がした。彼は頭を上げた。戸口に飛んでいった……。
一群の人々が、角燈の震える光に輝らされた薄暗い廊下で、ひそひそ話し合っていたが、そのまんなかに、水の滴《したた》ってる身体が、昔祖父の身体のように、じっと担架の上に横たわっていた。ルイザはその首にすがりついてすすり泣いていた。水車小屋の川にはまって溺《おぼ》れてるメルキオルが見出されたのだった。
クリストフは声をたてた。他の世界はすべて消え失せ、他の心痛はすべて吹き払われてしまった。彼はルイザの横に、父の死体の上に身を投げた。そして二人はいっしょに泣いた。
寝台のそばにすわり、今は厳格
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