を憎んだ。猛然として彼女ら二人を蔑《さげす》んだ。横顔を打たれたような気がした。恥ずかしさと口惜《くや》しさとに身を震わした。返報をし直接行動をしなければならなかった。復讐《ふくしゅう》ができなければ生命をも投げ出したかった。
彼は起き上がって、馬鹿に乱暴な手紙を書いた。
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奥様
あなたが自分でおっしゃったように、私を思い違いしていられたかどうか、それは私の知るところでありません。しかし私の知ってることは、私があなたをひどく思い違いしていたということです。私はあなた方を自分の味方だと信じていました。あなたは自分でそうおっしゃっていらしたし、またそういう様子をしていらした。そして私は、自分の生命よりもいっそうあなたを愛していました。ところがそんなことは皆|嘘《うそ》であって、私にたいするあなたの愛情は欺瞞《ぎまん》にすぎなかったことを、私は今|覚《さと》りました。あなたは私を弄《もてあそ》んでいらした。私はあなたの慰みになり、あなたの気晴らしになり、音楽をひいてあげましたし――あなたの召使でありました。しかし今は、あなたの召使ではありません。だれの召使でもありません!
私にはあなたの令嬢を愛するの権利がないということを、あなたはきびしく私に覚《さと》らしてくださいました。しかし世に何物も、愛する者を愛する私の心を、妨げることはできません。私はあなたと同じ階級には属していないとしましても、あなたと同じく貴族であります。人間を貴《とうと》くするものは心です。私は伯爵《はくしゃく》ではないにしても、多くの伯爵以上の名誉を、おそらく自分のうちにもっています。従僕にしろ伯爵にしろ、私を侮辱する時には、私はそれを軽蔑します。魂の貴さを具えないなら、たとい貴族だと自称しても、私はそれを泥土《どろつち》のように軽蔑します。
さようなら! あなたは私を見誤りました。あなたは私を欺きました。私はあなたを蔑《さげす》みます。
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あなたの意に反してミンナ嬢を愛し、死ぬまでミンナ嬢を愛する者。――彼女は彼のものであり[#「彼女は彼のものであり」に傍点]、何物も彼より彼女を奪うことをえません。
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彼はその手紙を郵便箱に投げ込むや否や、すぐに自分のしたことが恐ろしくなった。もうそれを考えまいとした。しかしある文
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