、オットーに書き送る手紙の下書きとオットーからの返辞とは、ちゃんとしまっておいた。鍵《かぎ》はかけないで、楽譜帳の中にはさんでおいた。そうしておけばだれにも捜し出されはすまいと安心していた。彼は弟たちの意地悪を予期していなかった。
彼は少し前から、弟たちが彼の方を眺めながら笑ったりささやき合ったりしてるのを、よく見かけた。彼らは切れ切れの文句を耳にささやき合っては、身をねじっておかしがっていた。クリストフにはその言葉が聞きとれなかった。そのうえ、彼らにたいするいつもの策略から彼は、彼らが言ったりしたりすることにはまったくの無関心を装っていた。ところが二、三の言葉が彼の注意を呼び起こした。身に覚えのある言葉のようだった。やがて、弟たちに手紙を読まれたことがもう疑えなくなった。そしてエルンストとロドルフとが、真面目《まじめ》くさった道化《どうけ》た様子で、「わが親愛なる魂よ、」と呼び合ってるところを、詰問してみたが、何にも聞き出しえなかった。悪賢い子供たちは、なんのことだかわからないようなふうをして、勝手な呼び方をしてもかまうものかと言った。手紙はそっくり元の場所にあったので、クリストフはそのうえ追究しなかった。
それから少し後に、彼はエルンストが盗みをしてる現場を押えた。この小さな曲者は、ルイザが金をしまってる箪笥《たんす》の抽出《ひきだし》の中を捜していたのである。クリストフは彼をひどく突つきまわし、その機に乗じて、胸にあることをすっかり言ってやった。好意を欠いた言葉で、エルンストの悪事の数々を長たらしく並べたてた。エルンストはその訓誡を悪意にとった。クリストフから叱《しか》られる訳はないと傲然《ごうぜん》と答えかえした。そして兄とオットーとの友情を、それとなくほのめかしてやった。クリストフにはわからなかった。しかし争論の中にオットーの名前がもち出されるのを聞いた時、彼はエルンストにその説明を迫った。子供は冷笑した。それから、クリストフが真蒼《まっさお》になって怒るのを見ると、彼は恐《こわ》がって、もう口をきこうともしなかった。クリストフはこういうふうでは何にも聞き出しえないのを覚《さと》った。彼は肩をそびやかしながらそこにすわり、深い軽蔑の様子を見せた。エルンストは気色を損じて、また鉄面皮な言葉を言い出した。彼は兄の心を傷つけてやろうとつとめ、ますます下賤《げ
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