く聞えていた。自然界の何か異様な物|凄《すご》いものが今にも現われて来はしないかと、クリストフはたえずびくびくしていた。彼は駆け出した。胸がひどく動悸《どうき》していた。
祖父の室の中に燈火がついてるのを見ると、彼はほっと安心した。しかしいちばん悪いのは、老クラフトがしばしば不在であることだった。そういう時にはなおいっそう恐《こわ》くなった。野の中に孤立してるその古い家は、真昼間でさえ子供をおびえさした。年老いた祖父がそこにいると、彼は恐ろしさを忘れてしまうのだったが、しかし時とすると、老人は彼を一人置きざりにして、何も言わずに出かけてしまうことがあった。クリストフはそれに気をつけていなかった。室の中は安らかだった。すべて見慣れたやさしい物ばかりだった。白木の大きな寝台があった。寝台の枕頭《ちんとう》には、棚《たな》の上に大きな聖書があり、暖炉の上に造花があって、それといっしょに二人の妻と十一人の子供との写真が置いてあった――老人はその下の方にそれぞれ、出生と死亡との日付を書いておいた。――壁には、枠《わく》のはまった聖書の文句や、モーツァルトとベートーヴェンとの粗末な着色石版画が掛
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