。
「ああ、この惨《みじ》めな酔っ払い!」と彼女は叫んだ。
彼女の眼は憤怒《ふんぬ》の念に燃えていた。
クリストフは父が彼女を殺しはすまいかと思った。しかしメルキオルは、妻の恐ろしい姿が突然現われたのにひどく驚いて、別に返答もしないで泣き出した。彼は床《ゆか》の上に転げ回った。そして家具に頭をぶっつけながら言った、彼女の方が道理だ、自分は酔っ払いだ、家族の者たちの不幸の種とばかりなっている、可憐《かれん》な子供たちを台無しにしている、いっそ死んでしまいたいと。ルイザは軽蔑して彼に背を向けていた。彼女はクリストフを隣りの室に連れていって、やさしくいたわり、気を落付けさせようとした。子供はなお震えてばかりいた。母から種々尋ねられても返辞をしなかった。それからにわかにすすり泣きを始めた。ルイザは水で顔を洗ってやり、腕に抱きしめ、やさしく言葉をかけ、自分もいっしょに涙を流した。やがて彼らは二人とも心が静まった。彼女はひざまずき、彼をも自分のそばにひざまずかした。彼らは祈った、神様が父の厭《いや》な癖を癒《なお》してくださるようにと、メルキオルがふたたび昔のようによい人になるようにと。ルイザ
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