分で取ってしまった。しかしクリストフはもうその手に乗らなかった。彼はそれを自分の皿に入れて、弟のエルンストのために取っておいた。エルンストはいつも貪欲《どんよく》で、食事の初めからその馬鈴薯を横目で窺《うかが》い、しまいにはねだり出した。
「食べないの? そんなら僕におくれよ、ねえ、クリストフ。」
ああいかほどクリストフは、父を憎く思ったことか! 父が自分たちにたいして少しの思いやりもなく、自分たちの分まで食べて知らないでいるのを、いかほど恨めしく思ったことか! 彼は非常に腹が空いていたので、父を憎んだし、そう口に出して言ってやりたいほどだった。しかし彼は高慢にも、みずから自活しないうちはその権利をもたないと考えていた。父が奪い取ったそのパンも、父が稼《かせ》ぎ出したものだった。彼自身はなんの役にもたっていなかった。彼は皆にとっては厄介《やっかい》者だった。口をきく権利はなかった。やがては彼も口をきけるだろう――もしそれまで生きてたら。しかしああ、それ以前にはたとい空腹で死んでも……。
彼は他の子供よりもいっそう強く、そういう残酷な節食に苦しんでいた。彼の強健な胃袋は拷問にかけられ
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