る妻の眼付も、彼の眼には止まらなかった。食物皿は、彼が次に回す時には、もう半ば空《から》になっていた。ルイザは小さな子供たちに食物をよそってやった、一人に馬鈴薯《ばれいしょ》二つずつを。クリストフの番になると、その三つしか皿には残っていないことがしばしばで、しかも母はまだ取っていなかった。彼はそれを前もって知っていた。自分に回ってくる前に馬鈴薯を数えておいた。そこで彼は勇気を出して、何気ない様子で言った。
「一つでたくさんだよ、お母さん。」
 彼女は少し気をもんでいた。
「二つになさい、皆《みんな》と同じに。」
「いいえ、ほんとに一つでいいよ。」
「お腹《なか》がすいていないのかい。」
「ええ、あんまりすいてはいない。」
 しかし彼女もまた一つきり取らなかった。そして彼らは丁寧《ていねい》に皮をむき、ごく小さく切り、できるだけゆっくり食べようとした。母は彼の方を窺《うかが》っていた。彼が食べてしまうと言った。
「さあ、それをお取りよ!」
「いいよ、お母さん。」
「では加減でも悪いの?」
「悪かない。でもたくさん食べたよ。」
 父はよく彼の気むずかしいのを叱《しか》って、残りの馬鈴薯を自
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