熟な高慢心が増長するの危険を、あらかじめ防いでやるつもりでいるらしくも思われるのだったが、実はそうではなかった。むしろその反対であるのをすぐに示すことになった。しかし彼は、音楽に表現すべきなんらの観念をもかつてみずからもったことがなかったし、また表現しようという少しの欲求をももったことがなかったので、演奏の技倆に自惚《うぬぼ》れたあまりついには、作曲は第二義的のものであると考え、演奏者の手腕のみが作曲にすべての価値を与えるものだと考えるようになっていた。もちろん彼とて、ハスレルのような大作曲家によつて惹起《ひきお》こされる感激に、無感覚ではなかった。世人の歓迎にたいしては、いつも成功ということにたいして感ずる尊敬の念をいだいた――人知れず多少の嫉妬《しっと》を交えた尊敬の念を。なぜなら、それらの喝采《かっさい》を横取りされたような気がしていたから。しかしまた、偉い名手の成功も、それに劣らずはなばなしいものであって、快い媚惑《びわく》的な結果からいえば、さらに個人的なさらに豊かなものであるということを、経験上知っていた。彼は楽匠らの才能に深い敬意を表するふうを装っていたが、しかし彼らの知
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