他《ほか》の人に知らせる必要はない。ただ……(ここで彼の声は震えた)……ただ、後になって、私《わし》がもういなくなった時、お前はこれを見て、お前の年取ったお祖父さんを思い出してくれるだろう、ねえ! お祖父さんを忘れやしないね。」
 あわれな老人はすっかり言いきれなかった。彼は自分より長い生命があるに違いないと感じた孫の作品中に、自分の拙《つたな》い一節《ひとふし》を插入するという、きわめて罪ない楽しみを、制することができなかったのである。けれども、今から想像してるその光栄に与《あずか》りたいという彼の願望は、いたって謙譲な哀れ深いものだった。なぜなら、彼はまったく死滅してしまわないために、おのれの思想の一片を無名で残しておけば、それで満足していたから。――クリストフはいたく感動して、彼の顔にやたらに接吻した。老人はますます心を動かされて、彼の頭を抱きしめた。
「ねえ、思い出してくれるだろうね。今後、お前が立派な音楽家となり、偉い芸術家となって、一家の光栄となり、芸術の光栄となり、祖国の光栄となった時に、有名になった時に、お前を最初に見現わし、お前の将来を予言したのは、この年とったお祖父
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