やってみた。どうしても先刻の節《ふし》が思い出せなかった。でも祖父から注意されてるのに得意になって、自分の美しい声をほめてもらいたく思いながら、歌劇《オペラ》のむずかしい歌を自己流に歌った。しかし老人が求めてるのはそんなものではなかった。ジャン・ミシェルは口をつぐんで、もう彼に取り合わない様子をした。それでも、子供が隣りの室で一人で遊んでる間、室の扉を半ば開け放したままにしておいた。
 数日後、クリストフは自分のまわりに椅子《いす》を丸く並べて、芝居の断片的な記憶でこしらえ上げた音楽劇を演じていた。真面目《まじめ》くさった様子で、芝居で見たとおりにメヌエットの節《ふし》に合して、テーブルの上に掛かってるベートーヴェンの肖像へ向い、足取りや敬礼をやっていた。そして足先で回転をしてふり向くと、こちらを眺めてる祖父の頭が、半開きの扉から見えた。彼は祖父に笑われてると思った。たいへん極り悪くなって、ぴたりとよした。そして窓のところへ走って行き、窓ガラスに顔を押しつけて、何か夢中に眺めてるようなふうを装った。しかし老人はなんとも言わなかった。彼の方へやって来て抱擁《ほうよう》してくれた。クリスト
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