らおうとした。やらせられることはまったく無意味なことだった。親指をちょこちょこやりながら鍵《キイ》の上をできるだけ早く飛び回ることや、二本の隣りの指の間にぎごちなくこびりついてる薬指をしなやかにすることだった。やってると神経がいらいらしてくるし、ちっとも面白くなかった。魔法めいた共鳴音も、魅惑するような怪物も、一時予感される夢の世界も……すべてなくなってしまった。音階と練習とがつづくばかりで、しかもそれは乾燥で、単調で、無味であって、いつも食物のことに、きまりきった食物のことに及んでゆく食事時の会話より、いっそう無味なものであった。子供はただぼんやりと父親の教えを聞くようになり始めた。きびしく叱りつけられると、厭々《いやいや》ながらやりつづけた。叱責《しっせき》はすぐにやってきた。彼は最も底意地悪い機嫌《きげん》をそれに対抗さした。最もいけなかったことには、ある晩、隣りの室でメルキオルが将来の計画を洩らすのを聞いてしまった。こういうふうに苦しめられるのも、毎日むり強《じ》いに象牙《ぞうげ》の片を動かさせられるのも、賢い動物として見世物にされるためであったのか! 彼はもう親しい河を訪れに
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