忍び足ではいって来て、少し高すぎる鍵盤の前にすわってる子供のところへふいに現われたあの日、メルキオルは子供を観察したのだった。そしてある輝かしい思いが彼の頭に浮かんだのである。「神童だ!……どうして今まで気づかなかったんだろう。……家にとってはこの上もない仕合せだ!……こいつは母親のように百姓の子にすぎないと思い込んでいたが、しかしためしてみたって別に損するわけじゃない。運が向いてきたぞ! ドイツじゅうを連れ回り、外国へも連れ回ってやろう。面白いしかも高尚な世渡りだ。」――メルキオルはいつも、自分のあらゆる行為のうちに、隠れた高尚な点を捜さないではおかなかった。そしてたいていは高尚な点を見出すのだった。
右のような確信を強くいだいていたので、彼は夕食の最後の一口を食い終えると、すぐにまた子供をピアノの前に押しつけ、その日教えたところをくり返さして、子供の眼が疲れに閉じてくるまでやらした。それから、翌日は三度|稽古《けいこ》をさした。翌々日も同じだった。引きつづいて毎日そうした。クリストフはじきに倦《あ》いてきた。次にはたまらないほど厭《いや》になった。ついにはもう辛抱ができなくて、逆
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