なった。各兵士は、あるいは各黒奴は、めいめい帝王にもなれるし、同じような隊列の先頭にもなれるし、また鍵盤の先から端まで、全部の隊を展開させることもできるので、彼はそれを見てびっくりした。それらを行進させる筋道をたどってゆくと面白かった。しかしそういうことも、彼が最初見たものよりずっと幼稚になってしまった。不可思議な森はもう見出せなくなった。でも彼は熱心につとめた。なぜならつまらないことではなかったから。そして父の根気にも驚かされた。メルキオルは決して倦《あ》かなかった。同じことを十遍もくり返さした。そんなに骨折ってくれる訳がクリストフにはわからなかった。では父が自分を愛してくれてるのか。なんと親切なことだろう! 子供は感謝の念で心がいっぱいになって、非常に努めた。
 師の頭にどういう考えが浮かんだかを知っていたら、彼はそれほど嬉しがりはしなかったろう。

 その日以来、メルキオルは彼を隣家に連れていった。そこでは一週間に三回、室内音楽会が催されていた。メルキオルは第一ヴァイオリンをひき、ジャン・ミシェルはチェロを弾《ひ》いた。他の二人は、銀行員とシルレル街の老時計商とであった。時々、薬
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