。しかしメルキオルはいつになく叱りつけなかった。上機嫌《じょうきげん》で笑っていた。
「じゃあお前にも面白いんだな。」と彼はやさしくクリストフの頭をたたきながら尋ねた。「ひき方を教えてもらいたいか。」
 教えてもらいたいかって!……彼は夢中になって「ええ」とつぶやいた。そして二人ともピアノの前にすわった。クリストフはこんどは大きな書物をつみ重ねた上に身を落着けた。ごく熱心に最初の稽古《けいこ》を受けた。彼はまず、それらの大きい声を出す精霊は、一|綴《つづ》りかまたはただ一文字かの、支那にでもありそうな妙な名前をもってるのを知った。彼はびっくりした。彼はもっと違った名前を想像していた。仙女《せんにょ》物語に出てくる女王のような、やさしい美しい名前を想像していた。それらにたいする父のなれなれしい口のきき方が気に入らなかった。そのうえ、メルキオルに呼び出される時には、もう同じ精霊ではなかった。その指下から飛び出すと、冷淡なふうをしていた。それでもクリストフは、彼らの間にある関係を覚え、彼らの階級を覚え、一軍を率いる帝王に似ていたり一群の黒奴の並列に似ていたりする音階を覚えると、嬉《うれ》しく
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