く、ある子供にはいかにも恐ろしい!……クリストフは眠るのを恐れた。また眠らないのを恐れた。眠っていても目覚めていても、奇怪な姿に、精神から出てくる妖怪《ようかい》に、悪鬼に、彼はとりかこまれた。それらのものは、病魔の気味悪い明暗の境におけると同じく、幼時の薄ら明るみの中に浮動しているものである。
しかしそれら想像上の恐れは、やがて大なる恐怖[#「恐怖」に傍点]の前には消え失せなければならなかった、あらゆる人に食い込み、人知がいかに忘れんとつとめ否定せんとつとめても甲斐《かい》のない恐怖、すなわち死[#「死」に傍点]の前には。
ある日、彼は戸棚《とだな》の中をかき回しながら、見知らぬ物に手を触れた。子供の上着や縞《しま》の無縁帽があった。彼はそれらの物を得意になって母のところへもって行った。母は笑顔《えがお》を見せもしないで、不機嫌《ふきげん》な顔付をして、元のところへ置いて来るように言いつけた。彼がその訳を尋ねながらぐずぐずしていると、母はなんとも答えないで、彼の手から品物をもぎ取って、彼の届かない棚の上に押し込んでしまった。彼はたいへん気にかかって、しきりに尋ねだした。母はつい
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