轡《さるぐつわ》をはめられていた。気味悪いものが抱きついてきて喉《のど》がしめつけられた。息がつまりそうになって歯をがたがたさせながら、眼を覚した。目覚めた後もなお長い間震えつづけた。どうしても悩ましい気分を追い払うことができなかった。
彼が眠る室は、窓も扉もない小部屋であった。入口の上の棒に掛ってる古い垂幕だけが、両親の室との仕切になっていた。立ちこめた空気が息苦しかった。同じ寝室に寝てる弟たちから足で蹴《け》られた。彼は頭が燃えるようになり、半ば幻覚のうちにとらえられて、昼間の種々なつまらない心配事が、はてしもなく大きくなって浮かび上がってきた。悪夢に近いそういう極度の神経緊張の状態の中では、些細《ささい》な刺激も苦悩となった。床板の鳴る音も、彼に恐怖を与えた。父の寝息も、奇怪に高まって聞こえた。もう人間の息とは思えなかった。その馬鹿に大きな音が彼を脅《おびや》かした。そこには獣が寝てるような気がした。彼は夜に圧倒されていた。夜はいつまでも終りそうになかった。いつまでもそのままつづきそうだった。もう数か月も寝たままのような気がした。彼はけわしい息をつき、寝床の上に半身を起こし、そ
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