一人できめた。越えてはいけなかったのだから。
 しかし時とすると、書物から敵が出て来ることさえあった。――祖父がでたらめに買い求めた古本の中には、子供に深い印象を与える插絵のついてるのがあった。それらの插絵は、子供を惹《ひ》きつけるとともに恐れさした。奇怪な幻影の絵があり、聖アントアンヌの誘惑の絵があって、鳥の骸骨《がいこつ》が水差の中に脱糞していたり、無数の卵が腹の裂けた蛙《かえる》の中で虫のようにうごめいていた、頭が足で立って歩いていたり、尻《しり》がラッパを吹いていたり、あるいは世帯道具や獣の死骸などが、大きなラシャにくるまり、老婦人のような敬礼をしながら、しかつめらしく歩を運んでいた。クリストフはひどく厭《いや》な気がした。けれどそのためにかえってまた惹きつけられた。彼はそれらの插絵を長い間眺めた。そして時々、窓掛の襞《ひだ》の中に動いてるものを見るために、ちらりとあたりを見回した。――解剖学の書物の中にある剥皮体《はくひたい》の図は、なおいっそう忌《いま》わしいものだった。その絵がはいってる場所に近づくと、ページをめくりながら震えた。その奇妙な形をした雑色は、彼にたいして異常
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