望が、かすかな予感が、夢想に沈んでる子供の心に目覚めてきた。
 突然クリストフは、なんとない不安にとらえられて我に返った。眼をあげると、夜。耳を澄ますと、静寂。祖父は出かけたのである。彼は身を震わした。祖父の姿を見ようとして窓から覗《のぞ》き出すと、街道はひっそりしていた。すべてのものが脅《おびや》かすような様子になりだした。ああ、あいつ[#「あいつ」に傍点]がやって来でもしたら! だれが?……クリストフはだれであるかを知らなかった。ただ、恐ろしいものが……。方々の戸はよく閉まっていなかった。木の階段に、何かが上ってでも来るような音が軋《きし》った。子供は飛び上がった。肱掛椅子と二つの椅子とテーブルとを、室のいちばん奥の隅に引きずっていって、それで防柵《ぼうさく》をこしらえた。肱掛椅子を壁によせかけ、左右に椅子を一つずつ置き、前方にテーブルをすえた。中央に二重梯子を備えつけた。そしてその頂上に身をおちつけ、包囲された場合の弾薬としては、今までもってた書物と他のいく冊かの書物とを手にして、ほっと息をつきながら、幼い想像をめぐらして、敵はいかなる場合にもこの防柵を越えることはできないものと
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