ろが、おひめさまは、そのまりをつかむなり、ありがとうともいわず、とんでかえって行きました。
かえるは大声をあげて、
「まってください、まってください。」といいました。「わたしもいっしょにつれてって。わたしはそんなにかけられない。」
けれど、かえるが、うしろでいくらぎゃあ、ぎゃあ、大きな声でわめいたって、なんのたしにもなりません。おひめさまは、てんでそんなものは耳にもはいらないのか、とッとッとうちのほうへかけだして行ってしまって、かえるのことなんか、きれいにわすれていました。
かえるは、しかたがないので、すごすご、もとの泉のなかへもぐって行きました。
二
そのあくる日のことでした。
おひめさまが、王さまや、のこらずのごけらい衆《しゅう》といっしょに、食事のテーブルにむかって、金のお皿でごちそうをたべていますと、そとでたれかが、ぴっちゃり、ぴっちゃり、大理石のかいだんを上がってくる音がしました。そして、上まで上がってしまうと、戸をとんとんたたいて、
「王さまのおひめさま、いちばん下のおむすめご、どうぞこの戸をあけてください。」という声がしました。
おひめさまは立ち上がって行って、たれかしらみようとおもって、戸をあけますと、そこに、きのうのかえるが、ぺっちゃりすわっていました。
おひめさまは、ぎょっとして、ばたんと戸をしめるなり、知らん顔で席にもどりました。でも心配で心配でたまりません。おひめさまが胸をどきどきさせているのを、王さまはちゃんと見ておいでで、
「ひいさん、なにをびくびくしておいでだい。戸のそとに、大入道《おおにゅうどう》の鬼が来て、おまえをさらって行こうとでもしているのかい。」とたずねました。
「あら、ちがうの。」と、おひめさまはこたえました。「大入道の鬼なんかじゃないわ。でも、きみのわるいかえるが来て。」
「そのかえるが、おまいにどうしようというのだね。」
「あの、おとうさま、それはこういうわけなのよ。あたし、きのう、いつもの森の泉のところであそんでいましたらね、金もまりが水のなかにころげおちました。それであたしが泣いていると、かえるが出てきて、まりをとってくれましたの。それから、かえるがしつっこくたのむもんだから、じゃあお友だちにしてあげるって、あたしかえるに約束《やくそく》してしまいました。まさか、かえるが水のなかから、のこのこやってこようとは、おもわなかったんですもの。それが、あのとおりやって来て、なかへ入れてくれっていうんですもの。」
そのとき、またろうかの戸をとんとんたたく音がしました。そうして、大きな声でよびました。
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いちばん下の おひめさま、
あけてください たのみます。
つめたい泉の わくそばで、
きのう やくそく したことを、
あなたは おぼえて いるでしょう。
いちばん下の おひめさま、
あけてください たのみます。
[#ここで字下げ終わり]
すると王さまはいいました。
「それはおまえがいけないね。いちどやくそくしたことは、きっとそのとおりしなければなりません。さあ、はやく行って、あけておやり。」
おひめさまはしぶしぶ立って、戸をあけました。とたんに、かえるはぴょこんととびこんで来て、それから、おひめさまのあとについて、ひょこひょこ、いすの所までやってきました。
かえるは、そこにしゃがみこんで、上をみながら、
「わたしも、そのいすに上げてください。」といいました。おひめさまがもじもじしていると、おとうさまがまた、かえるのいうとおりしておやりといいました。
おひめさまはしかたなく、かえるをいすにのせてやりました。
するとかえるがまたいいました。
「どうぞ、わたしを、テーブルの上にのせてください。」
おひめさまが、かえるをテーブルにのせてやると、こんどは、
「さあ、その金のお皿をずっとわたしのほうによせてください。そうするとふたりいっしょにたべられるから。」といいました。
おひめさまは、かえるのいうとおりしてやりました。ほんとに、かえるが、ぴちゃぴちゃ、さもおいしそうに舌づつみうってたべているそばで、おひめさまは、ひとくちひとくち、のどにつかえるようでした。
かえるはたべるだけたべると、おなかをまえへつきだして、
「ああ、おなかがはって、ねむくなった。おひめさま、さあ、わたしをあなたのおへやにつれて行ってください。かわいらしい、あなたのきぬのお床《とこ》のなかで、わたしはゆっくりねむりたい。」
おひめさまは、もうがまんができなくなって、しくしく泣きだしてしまいました。ほんとに、ぬるぬる、ぴちゃぴちゃ、さわるのもきみのわるいかえるが、おひめさまのきれいなお床《とこ》のなかで、ねむりたいなんていうのですもの、おひめさまがか
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