だ》が出《で》なくなりました。
 その時《とき》、杜松《ねず》の樹《き》がザワザワと動《うご》き出《だ》して、枝《えだ》と枝《えだ》が、まるで手《て》を拍《う》って喜《よろこ》んでいるように、着《つ》いたり、離《はな》れたり、しました。すると木《き》の中《なか》から、雲《くも》が立《た》ちのぼり、その雲《くも》の真中《まんなか》で、ぱっと火《ひ》が燃《も》え立《た》ったと思《おも》うと、火《ひ》の中《なか》から、美《うつ》くしい鳥《とり》が飛《と》び出《だ》して、善《い》い声《こえ》をして歌《うた》いながら、中空《なかぞら》高《たか》く舞《ま》いのぼりました。
 鳥《とり》が飛《と》んで行《い》ってしまうと、杜松《ねず》の木《き》は又《また》元《もと》の通《とお》りになりましたが、手巾《はんけち》は骨《ほね》と一しょに何処《どこ》へか消《き》えてしまいました。マリちゃんは、すっかり胸《むね》が軽《かる》くなって、兄《にい》さんがまだ生《い》きてでもいるような心持《こころもち》がして、嬉《うれ》しくってたまらなかったので、機嫌《きげん》よく家《うち》へ入《はい》って、夕《ゆう》ご飯《はん》を食《た》べました。
 ところが、鳥《とり》は飛《と》んで行《い》って、金工《かざりや》の家根《やね》へ棲《と》まって、こう歌《うた》い出《だ》しました。
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「母《かあ》さんが、わたしを殺《ころ》した、
 父《とう》さんが、わたしを食《た》べた、
 妹《いもうと》のマリちゃんが、
 わたしの骨《ほね》をのこらず拾《ひろ》って、
 手巾《はんけち》に包《つつ》んで、
 杜松《ねず》の樹《き》の根元《ねもと》へ置《お》いた。
 キーウィット、キーウィット、何《なん》と、綺麗《きれい》な鳥《とり》でしょう!」
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 金工《かざりや》は仕事場《しごとば》へ坐《すわ》って、黄金《きん》の鎖《くさり》を造《つく》っていましたが、家根《やね》の上《うえ》で歌《うた》っている鳥《とり》の声《こえ》を聞《き》くと、いい声《こえ》だと思《おも》って、立上《たちあが》って見《み》に来《き》ました。けれども閾《しきい》を跨《また》ぐ時《とき》に、片方《かたほう》の上沓《うわぐつ》が脱《ぬ》げたので、片足《かたあし》には、上沓《うわぐつ》を穿《は》き、片足《かたあし》は、沓下《くつした》だけで、前垂《まえだれ》を掛《か》け、片手《かたて》には、黄金《きん》の鎖《くさり》、片手《かたて》には、ヤットコを持《も》って、街《まち》の中《なか》へ跳出《とびだ》しました。そして日光《にっこう》の中《なか》へ立《た》って、鳥《とり》を眺《なが》めて居《い》ました。
「鳥《とり》や、」と金工《かざりや》が言《い》った。「何《なん》て好《い》い声《こえ》で歌《うた》うんだ。もう一|度《ど》、あの歌《うた》を歌《うた》って見《み》な。」
「いえいえ、」と鳥《とり》が言《い》った。「ただじゃア、二|度《ど》は、歌《うた》いません。それとも、その黄金《きん》の鎖《くさり》を下《くだ》さるなら、もう一|度《ど》、歌《うた》いましょう。」
「よしきた、」と金工《かざりや》が言《い》った。「それ黄金《きん》の鎖《くさり》をやる。さア、もう一|度《ど》、歌《うた》って見《み》な。」
 それを聞《き》くと、鳥《とり》は降《お》りて来《き》て、右《みぎ》の趾《あし》で黄金《きん》の鎖《くさり》を受取《うけと》り、金工《かざりや》のすぐ前《まえ》へ棲《とま》って、歌《うた》いました。
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「母《かあ》さんが、わたしを殺《ころ》した、
 父《とう》さんが、わたしを食《た》べた、
 妹《いもうと》のマリちゃんが、
 わたしの骨《ほね》をのこらず拾《ひろ》って、
 手巾《はんけち》に包《つつ》んで、
 杜松《ねず》の樹《き》の根元《ねもと》へ置《お》いた。
 キーウィット、キーウィット、何《なん》と、綺麗《きれい》な鳥《とり》でしょう!」
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 歌《うた》ってしまうと、鳥《とり》は靴屋《くつや》の店《みせ》へ飛《と》んで行《ゆ》き、家根《やね》の上《うえ》へ棲《と》まって、歌《うた》いました。
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「母《かあ》さんが、わたしを殺《ころ》した、
 父《とう》さんが、わたしを食《た》べた、
 妹《いもうと》のマリちゃんが、
 わたしの骨《ほね》をのこらず拾《ひろ》って、
 手巾《はんけち》に包《つつ》んで、
 杜松《ねず》の樹《き》の根元《ねもと》へ置《お》いた。
 キーウィット、キーウィット、何《なん》と、綺麗《きれい》な鳥《とり》でしょう!」
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 靴屋《くつや》はこれを聞《き》くと、
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