ご》を頂戴《ちょうだい》と言《い》っても、何《なん》とも言《い》わないんですもの、わたし怖《こわ》くなッちゃったわ!」
「もう一|遍《ぺん》行《い》ってごらん。」とお母《かあ》さんが言《い》った。「そして返事《へんじ》をしなかったら、横面《よこッつら》を張《は》っておやり。」
そこでマリちゃんは又《また》行《い》って、
「兄《にい》さん、その林檎《りんご》を頂戴《ちょうだい》。」
といいましたが、兄《にい》さんは何《なん》とも言《い》わないので、女《おんな》の子《こ》が横面《よこッつら》を張《は》ると、頭《あたま》がころりと落《お》ちました。それを見《み》ると、女《おんな》の子《こ》は恐《こわ》くなって、泣《な》き出《だ》しました。そして泣《な》きながら、お母《かあ》さんの所《ところ》へ駈《か》けて行《い》って、こう言《い》いました。
「ねえ、母《かあ》さん! わたし兄《にい》さんの頭《あたま》を打《う》って、落《おッこと》しちまったの!」
そう言《い》って、女《おんな》の子《こ》は泣《な》いて、泣《な》いて、いつまでもだまりませんでした。
「マリちゃん!」とお母《かあ》さんが言《い》った。「お前《まえ》、何《なん》でそんなことをしたの! まア、いいから、黙《だま》って、誰《だれ》にも知《し》れないようにしておいでなさいよ。出来《でき》ちまったことは、もう取返《とりかえ》しがつかないんだからね。あの子《こ》はスープにでもしちまいましょうよ。」
こういって、お母《かあ》さんは小《ちい》さな男《おとこ》の子《こ》を持《も》って来《き》て、ばらばらに切《き》りはなして、お鍋《なべ》へぶちこんで、ぐつぐつ煮《に》てスープをこしらえました。マリちゃんはそのそばで、泣《な》いて、泣《な》いて、泣《な》きとおしましたが、涙《なみだ》はみんなお鍋《なべ》のなかへ落《お》ちて、その上《うえ》塩《しお》をいれなくてもいいくらいでした。お父《とう》さんが帰《かえ》って来《き》て、食卓《テーブル》の前《まえ》へ坐《すわ》ると、
「あの子《こ》は何処《どこ》へ行《い》ったの?」と尋《たず》ねました。
すると母親《ははおや》は、大《おお》きな、大《おお》きな、お皿《さら》へ黒《くろ》いスープを盛《も》って、運《はこ》んで来《き》ました。マリちゃんはまだ悲《かな》しくって、頭《あたま》もあげず
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