に、おいおい泣《な》いていました。すると父親《ちちおや》は、もう一|度《ど》、
「あの子《こ》は何処《どこ》へ行《い》ったの?」とききました。
「ねえ、」とお母《かあ》さんが言《い》った。「あの子《こ》は田舎《いなか》へ行《ゆ》きましたの、ミュッテンの大伯父《おおおじ》さんのとこへ、暫《しばら》く泊《とま》って来《く》るんですって。」
「何《なに》しに行《い》ったんだい?」とお父《とう》さんが言《い》った。「おれにことわりもしないで!」
「ええ、何《なん》ですか、大《たい》へん行《い》きたがって、わたしに、六|週間《しゅうかん》だけ、泊《とま》りにやってくれッて言《い》いますの。先方《むこう》へ行《い》けばきっと大切《だいじ》にされますよ。」
「ああ、」とお父《とう》さんが言《い》った。「それは本当《ほんとう》に困《こま》ったね。全体《ぜんたい》、おれに黙《だま》って行《い》くなんてことはありやしない。」
 そう言《い》って、食事《しょくじ》を初《はじ》めながら、お父《とう》さんはまた、
「マリちゃん、何《なに》を泣《な》くの?」とききました。「兄《にい》さんは今《いま》にきっと帰《かえ》って来《く》るよ。」
 それから、おかみさんの方《ほう》を見《み》て、
「おい、母《かあ》さん、これはとても旨《うま》いぞ!、もっともらおう!」といったが、食《た》べれば食《た》べる程《ほど》、いくらでも食《た》べられるので、「もっとくれ! 残《のこ》すのは惜《お》しい、おれが一|人《り》でいただいちまおうよ。」といいながら、とうとう一人《ひとり》で、みんな食《た》べてしまって、骨《ほね》を食卓《テーブル》の下《した》へ投《な》げました。
 するとマリちゃんは、自分《じぶん》の箪笥《たんす》へ行《い》って、一|番《ばん》下《した》の抽斗《ひきだし》から、一|番《ばん》上等《じょうとう》の絹《きぬ》の手巾《はんけち》を出《だ》して来《き》て、食卓《テーブル》の下《した》の骨《ほね》を、一つ残《のこ》らず拾《ひろ》い上《あ》げて、手巾《はんけち》へ包《つつ》み、泣《な》きながら、戸外《おもて》へ持《も》って行《ゆ》きました。マリちゃんはその骨《ほね》を杜松《ねず》の樹《き》の根元《ねもと》の草《くさ》の中《なか》へ置《お》くと、急《きゅう》に胸《むね》が軽《かる》くなって、もう涙《なみ
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