、血《ち》のように赤《あか》く、雪《ゆき》のように白《しろ》い男《おとこ》の子《こ》でした。おかみさんは自分《じぶん》の娘《むすめ》を見《み》ると、可愛《かわゆ》くって、可愛《かわゆ》くって、たまらないほどでしたが、この小《ちい》さな男《おとこ》の子《こ》を見《み》るたんびに、いやな気持《きもち》になりました。どうかして夫《おっと》の財産《ざいさん》を残《のこ》らず自分《じぶん》の娘《むすめ》にやりたいものだが、それには、この男《おとこ》の子《こ》が邪魔《じゃま》になる、というような考《かんが》えが、始終《しじゅう》女《おんな》の心《こころ》をはなれませんでした。それでおかみさんは、だんだん鬼《おに》のような心《こころ》になって、いつもこの子《こ》を目《め》の敵《かたき》にして、打《ぶ》ったり、敲《たた》いたり、家中《うちじゅう》を追廻《おいまわ》したりするので、かわいそうな小児《こども》は、始終《しょっちゅう》びくびくして、学校《がっこう》から帰《かえ》っても、家《うち》にはおちついていられないくらいでした。
或《あ》る時《とき》、おかみさんが、二|階《かい》の小部屋《こべや》へはいっていると、女《おんな》の子《こ》もついて来《き》て、こう言《い》いました。
「母《かあ》さん、林檎《りんご》を頂戴《ちょうだい》。」
「あいよ。」とおかあさんが言《い》って、函《はこ》の中《なか》から美麗《きれい》な林檎《りんご》を出《だ》して、女《おんな》の子《こ》にやりました。その函《はこ》には大《おお》きな、重《おも》い蓋《ふた》と頑固《がんこ》な鉄《てつ》の錠《じょう》が、ついていました。
「母《かあ》さん、」と女《おんな》の子《こ》が言《い》った。「兄《にい》さんにも、一つあげないこと?」
おかあさんは機嫌《きげん》をわるくしたが、それでも何気《なにげ》なしに、こういいました。
「あいよ、学校《がっこう》から帰《かえ》って来《き》たらね。」
そして男《おとこ》の子《こ》が帰《かえ》って来《く》るのを窓《まど》から見《み》ると、急《きゅう》に悪魔《あくま》が心《こころ》の中《なか》へはいってでも来《き》たように、女《おんな》の子《こ》の持《も》っている林檎《りんご》をひったくって、
「兄《にい》さんより先《さき》に食《た》べるんじゃない。」
と言《い》いながら、林檎《り
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