た。
 おかあさんは、それをひったくるようにして読みましたが、まるで弾丸を胸にうちこまれたかのように、まっさおになって、イスにたおれかかりました。ローリイは、水をとりに階下へかけおり、メグとハンナはおかあさんをだき起し、ジョウはふるえ声で読みあげました。
 マーチ夫人へ――ゴシュジン[#「ゴシュジン」は底本では「ゴシジュン」] ジュウタイ スグコラレタシ。ワシントン ブランクビョウイン エス・ヘール
 部屋は水をうったようにしんとなりました。娘たちは、じぶんたちの生活のあらゆる幸福と力がうばい去られるような気がしました。おかあさんは、すぐにわれにかえって、電報を読みなおし、悲痛な声でいいました。
「あたしはすぐに出かけます。けれど、もうまにあわないかもしれません。ああ、あなたたち、どうかおかあさんが、それに耐えられるように力を貸して下さい。」
 しばらくは、とぎれとぎれのなぐさめの言葉や、助け合うという誓いの言葉や、神さまの加護を信ずる言葉にまじるすすり泣きの声のほかに、部屋にはなんのもの音もしませんでした。けれど、あわれなハンナがわれにかえり、じぶんでは気づかないちえで、ほかの者にいい手本を示しました。すなわち、ハンナにとっては、はたらくということが、たいていの心配ごとをなおす良薬でありました。
「神さまが、だんなさまをお守り下さいます。わたしは泣いてばかりいられません。おくさまがおたちになる仕度をしなければなりません。」と、ハンナは真心からいって、涙をエプロンでぬぐい、そのかたい手でマーチ婦人の手をにぎって、人一倍はたらくために出てきました。
「ハンナのいうとおりです。泣いているときではありません。みんなおちついてちょうだい。そしておかあさんに考えさせておくれ。」
 おかあさんが、あおざめた顔をしながらも、気をとりなおして悲しみをおさえ、娘たちのためにいろいろ考えはじめたとき、娘たちも気をおちつけようとしました。
「ローリイはどこ?」と、おかあさんは、まず第一になすべきことをきめたのです。
「ここにいます。おばさん、どうぞなにかさせて下さい。」と、ローリイは、いそいでとなりの部屋から出て来ました。かれはこの一家の人たちの悲しみのなかに、いかに親しくても、まじってはならぬと思って、となりの部屋にしりぞいていたのです。
「あたしが、すぐ出発するという電報をうって下さ
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