るが、かの老婆が過去の経歴のうちには手紙にあらわれているような暗い秘密をかくしていると思われる節があるかと質問すると、J氏は驚いたように見えた。彼はしばらく考えたのちに、こう答えた。
「さきにお話し申した通り、あの婆さんがわたしのほうの知り合いであるという以外、その若いときの経歴などについては、あまりよく知らないのです。しかしあなたのお話を伺って、おぼろげな追憶を呼び起こすようにもなりましたから、わたしは更に聞き合わせて、その結果をご報告しましょう。それにしても、ここに一人の犯罪者または犯罪の犠牲者があって、その霊魂が犯罪の行なわれた場所へ再び立ち戻って来るという、世間一般の迷信を承認するとしても、あの婆さんの死ぬ前からあの家に不思議の物が見えたり、不思議な音が聞こえたりしたのはどういうわけでしょうか。……あなたは笑っていられるが、それにはどういうご意見がありますか」
「もし、われわれがこの秘密の底深くまで進んで行ったら、生きている人間の働いていることを発見するだろうと思われます」
「え、なんとおっしゃる。では、あなたはすべてのことが詐欺《いかさま》だと言われるのですか。どうしてそんなことが分かりました」
「いや、詐欺というのとは違います。たとえば、わたしが突然に深い睡眠状態におちいって――それはあなたが揺り起こすことの出来ないような深い睡眠状態におちいったとして、その時わたしは眼ざめた後に訴えることの出来ないほど正確に、あなたの問いに答えることが出来ます。すなわちあなたのポケットにはいくらの金を持っているとか、あなたは何を考えているとか……そういうたぐいのことは詐欺というべきではなく、むしろ無理にしいられた一種の超自然的の作用ともいうべきものです。わたしは自分の知らないあいだに、遠方からある人間に催眠術をほどこされて、その交感関係に支配されていたのだと思うのです」
「かりに催眠術師が生きた人間に対してそういう感応《かんのう》をあたえ得るとしても、生きていないもの……すなわち椅子やドアのような物に対して、それを動かしたり、あけたりしめたりすることが出来るでしょうか」
「実際はそうでなくして、そういうふうに思わせるのかもしれません。普通に催眠術と称せられるものでは、もちろん、そんなことは出来ませんが、催眠術師のうちにも、一種の血統があるか、あるいはその術の特に優れた者
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