たが、しかも言葉そのものには力がこもっていて、あらっぽい強烈な愛情が満ちていた。しかし、そのうちのそこここに何らかの暗い不可解の点があって、それは愛情の問題ではなく、ある犯罪の秘密を暗示しているように思われた。すなわち、その一節にこんなことが書いてあったのを、私は記憶していた。
[#ここから2字下げ]
――すべてのことが発覚して、すべての人がわれわれを罵《ののし》り憎んでも、たがいの心は変わらないはずだ――
――けっして他人をおまえと同じ部屋に寝かしてはならないぞ。夜なかにおまえがどんな寝言を言わないとも限らない――
――どんなことがあっても、われわれの破滅にはならない。死ぬ時が来れば格別、それまではなんにも恐れることはない――
[#ここで字下げ終わり]
それらの文句の下に、それよりも上手な女文字で「その通りに」と書き入れてあった。そうして、最後の日付けの手紙の終わりには、やはり同じ女文字で「六月四日、海に死す。その同じ日に――」と書き入れてあった。わたしは二通の手紙を下に置いて、それらの内容について考え始めた。
そういうことを考えるのは、神経を不安定にするものだとは思いながら、わたしは今夜これからいかなる不思議に出逢おうとも、それに対抗するだけの決心は十分に固めていた。
わたしは起《た》ちあがって、かの手紙をテーブルの上に置いて、まだ熾《さか》んに輝いている火をかきおこして、それにむかってマコーレーの論文集をひらいて、十一時半頃まで読んだ。それから着物のままで寝台へのぼって、Fにも自分の部屋へさがってもよいと言い聞かせた。但《ただ》し、今夜は起きていろ、そうして私の部屋との間のドアをあけておけと命じた。
それから私は一人になって、寝台の枕もとのテーブルに二本の蝋燭をともした。二つの武器のそばに懐中時計を置いて、ふたたびマコーレーを読み始めると、わたしの前の火は明かるく燃えて、犬は爐《ろ》の前の敷物の上に眠っているらしく寝ころんでいた。二十分ほど過ぎたころに、隙《すき》もる風が不意に吹き込んで来たように、ひどく冷たい空気がわたしの頬を撫でたので、もしやあがり場に通じている右手のドアがあいているのではないかと見返ると、ドアはちゃんとしまっていた。さらに左手をみかえると、蝋燭の火は風に吹かれたように揺れていた。それと同時に、テーブルの上にある時計がしずかに、眼に
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