)をするためにヴェルサイユの宮殿へ行った。オルレアン公が親元《おやもと》をしていたので、祖母はいかにも尤《もっと》もらしく、まだ負債を返済していないことを手軽に言訳してから、公爵と勝負をはじめた。祖母は三枚の骨牌札を選んで順じゅんにそれを賭けて行って、とうとうソニカ(一番手っ取り早く勝負のきまる骨牌戯)で三枚とも勝ったので、祖母は前に負けただけの金額を全部回収してしまったのだ」
「実に僥倖《しあわせ》だな」と、一人の客が言った。
「作り話さ」と、ヘルマンが批評をくだした。
「たぶん骨牌に印《しるし》でも付けておいたのではないか」と、三番目に誰かが言った。
トムスキイは断乎《だんこ》たる口ぶりで答えた。
「僕はそうは考えないね」
「なんだ」と、ナルモヴが言った。「君は三枚ともまぐれ当たりに勝つ方法を知っているおばあさんが生きているのに、彼女からその秘密を引き出し得なかったのか」
「むろん、僕もいろいろに抜け目なくやっては見たのだがね」と、トムスキイは答えた。「なにしろ、祖母には四人の息子があって、そのうちの一人が僕の父だが、四人とも骨牌では玄人《くろうと》の方であったし、その秘密を明かしてくれれば叔父や父ばかりでなく、僕にだってまんざら悪いことではないのだが、祖母はどうしてもその秘密を明かそうとはしなかったのだ。だが、この話は叔父も彼の名誉にかけて、実際の話だと断言していたよ。それに、死んだシャプリッツキイね――数百万の資産を蕩尽《とうじん》して、尾羽《おは》打ち枯らして死んだ――あの先生が、かつて若いときに三十万ルーブルばかり負けたことがあったのだ。よくは覚えていないが、たぶん相手はゾリッヒであったと思うがね。そこで先生、すっかり悲観してしまっていたところを、いつも若い者のでたらめな生活に対しては厳格であった僕の祖母がひどく同情して、生涯に二度と骨牌をしないという誓言をさせた上で、三枚の切り札の秘密を彼に授けて、順じゅんに賭けるように教えたのだ。そこで、シャプリッツキイは前に負けた敵のところへ出かけて行って、新手《あらて》の賭けをやった。初めの札で彼は五万ルーブルを賭けて、ソニカで勝ってしまったが、その次の札で彼は十万ルーブルを賭けるとまた勝った。こうして最後まで同じ手を打って、とうとう彼が前に負けた金額よりも遙かに多く勝ってしまったのだ……」
「もうそろそろ寝よ
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