ラに、霊魂を失ふやうな迷には陥らぬやうにならう。此策は必ずお前を救ふに相違ないて。」わしは此二重生活に困憊してゐたので、貴公子か僧侶かどちらが幻惑の犠牲だかを確め度いばかりに直に之を快諾した。わしは全くわしの心の中にゐる二人の男の一人を、もう一人の利益の為に殺すか、又は二人共殺すか、どちらか一つにする決心でゐた。それは此様な怖しい存在は続けられる事も、堪へられる事も出来なかつたからである。そこで僧院長《アベ》セラピオンは鶴嘴と挺《てこ》と角燈とを整へて、わし達二人は真夜中に場所も位置も彼のよく知つてゐる――の墓地へ出かけたのであつた。暗い角燈の光を五六の墓石の碑銘に向けた後に、わし達は遂に、半大きな雑草に掩はれて、其上又苔と寄生植物とに侵された大きな板石の前に出た。そして其上に、わし達は下のやうな墓碑銘の首句を探り読む事が出来たのである。
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女性《によしやう》の中の最も美しき女性として
生ける日に誉ありし
クラリモンドこそ此処《ここ》に眠れ
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「確に此処ぢや。」とセラピオンが呟いた。そして角燈を地上に置くと、石の端の下へ挺《てこ》の先を押入
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