tを饒舌《しやべ》る、わしの眼には此世ながらの悪魔ぢや。其中の一番卑しい者の服でさへ、皇帝が祭礼に着る袍の役に立つさうな。此クラリモンドには、始終妙な噂があつたつて。何でも女性の夜叉だと云ふ噂ぢや。が、わしは確かにビイルゼバッブだと信じてゐるて。」
彼は話すのを止めて、恰《あたか》も其話の効果を観察するやうに、前よりも一層、注意深くわしを見始めた。わしは彼がクラリモンドの名を口にした時に思はず躍り立たずには居られなかつた。そして彼女の死の知らせは、わしの見た其夜の景色と符合する為に、わしの胸を畏怖と懊悩とに満たしたのである。其畏怖と懊悩とはわしが出来る限り力を尽したにも拘らず、わしの顔に現はれずにはゐなかつた。セラピオンは心配さうな、厳格な眸《め》でぢつとわしを見たが、やがて云ふには「わしはお前に忠告せねばならぬて。お前は足をつまだてゝ奈落の辺《ふち》に立つてゐるのぢや。落ちぬやうに注意をしたがよい。悪魔の爪は長いわ、墓もあてにはならぬ物ぢや。クラリモンドの墓は、三重の封印でもせねばなるまい。人の云ふのが誠なら、あの女の死ぬのは始めてゞは無いさうな。神がお前を御守り下さればよいがの、
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