轤ホと思つた。セラピオンは、わしの此好奇心を確に、わしが建築を賞讃してゐるのだと思つたらしい。かう云ふのは彼が、わしにあたりを見る時間を与へる為に、わざと騾馬の歩みを緩めたからである。遂にわし達は市門を過ぎて其向うにある小山を上りはじめた。其頂に着いた時である。わしはクラリモンドが住んでゐる土地の最後の一瞥を得ようと思つたので、その方に頭をめぐらして眺めると、大きな雲の影が、全市街の上に垂れかゝつて、其青と赤と反映する屋根の色が、一様な其中間の色に沈んでゐた。其色の中を、其処此処から白い水沫《みなわ》のやうに、今し方点ぜられた火の煙が上へ/\と昇つて行く。と、不思議な光の関係で、まだ模糊とした蒸気に掩はれてゐる近所の建物よりは遥に高い家が一つ、太陽の寂しい光線で金色《こんじき》に染められながら、うつくしく輝いて聳えてゐる――実際は一里半も離れてゐるのであるが、其割には近く見える。そして其建築の細い点迄が明に弁別される――多くの小さな塔や高台や窓枠や燕の尾の形をしてゐる風見迄が、はつきりと見えるのである。
「向うに見える、あの日の光をうけた宮殿は何でせう。」とわしはセラピオンに尋ねた。彼
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