狂う人々
僕等を乗せた幽霊船は、不思議な大鳴門に吸い込まれ、大きく輪を描いて、ぐるぐる船首を独楽《こま》のように回転しはじめた。
一海里平方もあろうという大渦巻だから、外側をぐるぐる廻っているあいだは、甲板にある僕等も、さほど怖《おそ》ろしいとはおもわないが、だんだん内側の方へ吸い寄せられ、大渦巻の中心点をぐるぐる回転するようになると、その速度が、あまり迅《はや》く、めまぐるしくなって、甲板に立っていられなくなった。
「おお」「おお」技術員たちは、甲板に腹匍《はらば》いになり、半狂乱になって、哀叫している。
僕も、陳《チャン》君も、二人の科学者も、甲板に立っていられないので、それぞれ柱や、縄《ワイヤー》に取《とり》すがり、振落されるのを避けながら、互に顔を見合った。
急速度の回転のために、何だか頭が狂いそうだ。このまま気が遠くなって死んでしまうにちがいない。空も、海も、船も、人も、ぐるぐる狂い廻っているので、頭の中も、心臓も、血も、ぐるぐる狂い廻っているようだ。
「諸君、このままだと、われわれの生命《いのち》は、三日と保つまい。人間の肉体は、この急速度に対抗できても、心理
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