ね」
「難破船かも知れない」
 僕と、老博士は、囁《ささや》き合った。だが、難破船にしては、船体がガッチリしている。太い烟突《えんとつ》から、黒煙を吐いてはいないが、まさか、面白《おもしろ》半分に海洋を流されているのでもあるまい。しかも近づいてくるにしたがって、いよいよ不気味に感じられる。
「幽霊船だ」誰かがまた、恐怖に顫《ふる》えた声で叫んだ。
「幽霊船?」僕は、おもわず聞き返した。
「難破船の乗組員が、みんな死んで、その亡霊が船を動かしているということを、物語にきいたが、あの船は、それにちがいない」
「それは、船乗たちの迷信さ」
 老博士は、一笑に附したが、
「博士、ひょっとすると、幽霊船かもしれませんよ」
「ハハハハハハハ。君までが、……」
 そういううちにも、死の船、――幽霊船は、意識してか、だんだんと方船《はこぶね》の方へ近づいて来る。
 おお、死の船? 恐怖の船?……
 船と船とが、すれ違いになったとき、方船は黒船の舷側《げんそく》にぴったりと吸付いてしまった。いや、吸付いたとみたのは、汐《しお》のために、舷々《げんげん》相《あい》摩《ま》したのだ。方船の生残者たちは、

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