労で、はやく死にたい」老博士は、こう哀《かな》しく叫んだ。
「いけません。元気を出しなさい。僕がついていますよ」
「いや、わしのような老体を、かばっていては、君も死んでしまう。わしにかまわずに、君はあくまでも生きてくれ」
「いや、博士が死ねば、僕も死にます。人造島で約束したじゃありませんか。死ぬときは、一緒に……と」
「なるほど、その約束を忘れず、わしをかばってくれるのか、ありがたい。わしは、日本人の仁侠《にんきょう》の精神に涙ぐまれる」
「そんなことはありません。僕は、あなたの科学の才能を、もっと、世界人類のために働かしてもらいたいとねがうのです。そのために、懸命に、あなたをたすけているのです」
「ありがとう、ありがとう。わしは、きっと、生き抜いてみせる」
大浪《おおなみ》がくるたびに、方船《はこぶね》は、顛覆《てんぷく》しそうになる。
嵐に吹きつけられて、方船はほとんど浪に没することさえあった。
何よりも苦痛なのは、暴風雨に見舞われることだ。天蓋《てんがい》のない建物の屋根の上に、わずかに取《とり》すがっている僕等だから、豪雨には徹底的に叩《たた》きつけられる。が、この豪雨は
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