るンだ。愉快じゃないか」
「なるほど、海賊たちを、北洋に置去りして、そのまに横浜へ往くのか。こいつは妙案だ」
 僕は、陳君の奇計に、おもわず手を拍《たた》いた。が、考えてみると、この奇計も、やっぱり、少年だけの智慧《ちえ》しかないとおもった。
「僕も君も、素人だぜ。この巨船を運転することが出来やしないじゃないか」
 陳君は、微笑《ほほえ》んだ。
「君は、むざむざ、太平洋の真ン中で、鱶《ふか》の餌食《えじき》になりたいのか」
「いや、そいつも真ッ平だ」
「じゃ、僕の計画どおりにしたまえ。君は、一等運転士、そして、僕は、機関士。いいかい。僕は、すぐに機関室へ降りて往って、機関《エンジン》を動かすぜ。絶好の機会だ」
 陳《チャン》君は、勇躍一番、そのまま、甲板から姿を消してしまった。

     あッ! 機関が停《とま》った

 僕は、一等運転士を押付けられて、さすがに不安だった。船には、僕等のほかに、当番水夫が四、五人残っているだけだった。それだけの人数で、この巨船を横浜まで回航できるだろうか。素人だけで、こんな汽船を動かせたら、それこそ奇蹟《きせき》だろう。が、運転室におさまってみると、
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