めないと、人造島の心臓部を止めてしまうぞ」この一言が、たしかに利いたとみえて、敵の一斉射撃が、急に止み、一隊は、その場に釘付《くぎづけ》にされたかたちとなった。老博士は格納庫の火焔《かえん》に、上半身を照らしながら、語気を強めて、
「わしは、すでに、この人造島の心臓部を握った。飛行機はみんな焼けてしまった。おまえたちは、自由を失ったのだ。よいか、わしに反抗するものがあったら、わしは、ここにいる味方の一人に命じて、動力|機関《エンジン》を、一挙に破壊してしまうだろう。おまえたちが、この動力所へ殺到し、われわれを銃剣で突刺すまえに、発動機の機能は、めちゃめちゃになってしまうが、どうだ」
 と、宣告を与えた。が、戸外に佇《たたず》む敵の一隊は、怒りと怖れのために、一語も発するものがない。完全に心臓部をつかまれているからだ。
 格納庫は、まだ旺《さか》んに燃えている。しかしトラスト型の鉄骨と、飛行機の形骸《けいがい》を、無慚《むざん》にも曝《さら》して、はや、火焔も終りに近かった。老博士は、敵の銃口に身を曝《さら》しながら、なおも言葉をつづける。
「沈黙を守っているのは、無抵抗の意志と認める。飛行機は、あのとおり無惨な姿になってしまったから、いくら暴れても、この島を脱《のが》れることは出来ないだろう。どうだ。和睦《わぼく》せぬか。心臓部を握るわれわれと握手して、この人造島を、大陸へ向けて移動せしめることに同意せぬか」
 戸外の人々は、なおも沈黙を守っている。
「それとも、われわれの手で、動力機関を破壊し、氷の島を溶かして、敵味方|諸共《もろとも》、海底の藻屑《もくず》となるか」敵の一隊は、今は進みも退きも出来ず、死のような沈黙をつづけている。
「君たちは、わしのつくった人造島が完成すると、もう、この老ぼれには用は無いというので、わしを、この島に残し、島の動力器械を持去ってしまうのだろうが、それは、あまり酷薄無道だった。君たちは、みんな、そんな残酷な人間ではないだろう。わしを信じ、わしの科学の才能を認め、わしになお、研究を継続させたいものは、銃を捨てて、これへやって来たまえ」
 すると、先頭の一人は、銃を投げ出した。悄然《しょうぜん》と、こちらへ歩いてくる。すると、これに倣《なら》って、他の人々も銃を棄て、みなそのあとに続いた。
 が、これは、こちらの油断だった。降服とみせか
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