えた。二人の男は紺の脚半《きゃはん》に切緒《きりお》の草鞋《わらんじ》という厳重な足ごしらえで、白襟《しろえり》花色地の法被《はッぴ》を着ていた,向う向きの男は後からでよく分らなかッたが、打割《ぶっさき》羽織を着ていて、しかもその下から大刀の鞘《さや》と小刀の小尻《こじり》とが見えていた様子といい、一壇高き切株へどッかと腰を打ち掛けて、屋台店の蟹《かに》と跋扈《ふみはだ》かッていた為体《ていたらく》といい、いかさまこの中の頭領《かしら》と見えた。
われわれの近づくのに気がついたか、件《くだん》の男はこちらをふり向いた,見覚えの貌だ,よく見れば山奉行《やまぶぎょう》の森という人で、残《あと》の二人は山方中間《やまかたちゅうげん》であッた。
山奉行というのは、年中腰弁当で山林へ出張して、山林一切のことを管督する役で、身柄のよい人の勤むる役ではない,それゆえ自分などに対しても、自然丁寧なので。
森は自分を見ると、満面に笑《え》み傾けてそして立ち上ッて、
「おや、秀さん。蕨採りですかな? 大層大勢で。採れますかな? どらどらお見せなさい」
そのうちに一同も近づいて来た。森は二歩《ふたあ
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