ぎょうとく》へ流れついたことを話して、その犬士の流されたところもここらであろうかなどと話しているうち、船は向うの岸へ着いた。それから上陸して境駅の入際《いりぎわ》からすぐ横へ切れると、森の中の小径へかかッた,両側には杉《すぎ》、檜《ひのき》、楢《なら》などの類《たぐい》が行列を作ッて生えているが、上から枝が蓋《かぶ》さッていて下に木下闇《こしたやみ》が出来ている、その小径へかかッた。
「もうじきそこからはいるのです。さア皆さん採りッこをしましょう」と勘左衛門が勇み立ッた、もっともわざと。
「秀さんようございますか」娘は笑いながら――「まけませんよ」
「ええ、ようございますとも。負けるもンか女なんぞに」
長井戸の森は何里ぐらい続いていたか、自分はよく覚えておらぬが、随分大きな森であッた,さて森の中の小径をおよそ二三町もはいッて往くと、葉守《はもり》の神だか山の神だかえたいの分らぬ小さな神の祠《ほこら》の前へ出た、これが森の入口なので。森の中へはいッて見ると、小草《おぐさ》の二三寸延びた蔭または蚊帳草《かやつりぐさ》の間などから、たおやめの書いた仮名文字ののしという恰好《かっこう》で、蕨
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