ならしいやつ、それから前が土間になッていて、真中に炉が切ッてあろうという書割《かきわり》。
母と、森と、勘左衛門の三人が三鉄輪《みつがなわ》に座を構えて、浮世|雑談《ぞうだん》の序を開くと、その向うでは類は友の中間《ちゅうげん》同志が一塊《ひとかたまり》となッて話を始めた,そこで自分は少し離れて、女中連の中へはいり込み、こちらの一方へ陣取ッた。
「秀さん」娘は笑いながら、「あなたどのくらい採りました、お見せなさい。おやたったそれきり、少ないことねエ,私の方が多うございますよ,そウら御覧なさい、勝ちましたよ私の方が」
自分はこの時姉がその身の採ッたのを娘のと一しょにしたところを見た。
「ああ、ずるいずるい、家の姉さんのを混ぜたのだもの」
「あら、あんなこと。ほほほほ混ぜはしませんよ」
「いいえ、混ぜました、混ぜましたよ,見ていましたからね」
「あら。まア、卑怯《ひきょう》な、男らしくもない、負けたものだからそんなことを」
そのうちに渋茶がはいると、かねて中間に持たせて来た鮓《すし》を今日の昼食として、なお四方山《よもやま》の話をしていた。
その時勘左衛門の話に、このひょうきん者が検見《けんみ》の伴をして、村々を廻わッて、ある村で休んだ時、脚半の紐《ひも》を締め直すとて、馬鹿なことさ、縁台の足ぐるみその紐を結びつけて、そして知らずにすましきッて、茶を飲んでいたが,そのうち上役の者が、いざ、お立ちとなッたので、勘左衛門も急いで立ち上ッて足を挙げると、いけない,挙げる拍子に縁台が傾いたので、盆を転覆《ひッくりか》えして茶碗《ちゃわん》を破《こわ》したが、いまだにそれが一ツ話でと、自身を物語ッたのを、われわれ一同話を止めて、おかしな話と聞いていたが、実にこの男は滑稽家でもあッたが、またそそくさした男でもあッた。
さてしばらくここに休んでいたが、自分たちの組が大人を催促して、山奉行に別れて、再び蕨採りに出かけた。今度は出かけるや否や、すぐちりぢりになッて採り始めた。自分は娘の傍を離れず、娘が採るたびに自分の採ッたのと比較して見て、負けまいと思ッて励んでいたが、この時はもウ蕨に気を採られて、娘のことは思ッてはいなかッた,ト言ッて忘れてもいなかッたので,娘の傍にいるということは、闇《あん》に知ッていたので、いわゆる虫が知ッていたので,――その飄《ひるが》えるふりの袂《たも
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