この恩知らず奴《め》が!……」
「はゝゝゝ。」「ほゝゝゝ。」
「あゝ、もう止めてくれ。後生だから、はゝゝゝ。腹が痛くなつて来た。……あゝ!」
「何だと! 薪割の與平次奴!……はつはつは。……」と、今度は勇助の仮声を使ふものが現はれて来た。一同が、また、新しくどつと笑ひ崩《くづ》れた。
チン! ボン! カン! カン! チン! チン!
「はゝゝゝ、あゝ、鉦《かね》もなも叩かれたもんでねえ。はゝゝゝ。」
それから、また長いこと笑ひが続いた。そして、やつと終つた。ある者は涙を拭《ふ》き、ある者は横腹を叩き、ある者は咳入《せきい》つて、隣の人から背中を叩いて貰《もら》つたりした。
「あゝ。あゝ。」
あつちでも、こつちでも、笑ひに疲れた後の長い吐息が聞かれた。行列は、いつか識《し》らぬ間に、火葬場に着いてゐるのであつた。
[#地から2字上げ](大正十一年九月)
底本:「現代日本文學大系 49 葛西善蔵 嘉村磯多 相馬泰三 川崎長太郎 宮地嘉六 木山捷平集」筑摩書房
1971(昭和48)年2月5日初版第1刷発行
1985(昭和60)年11月10日初版12刷発行
初出:「野の哄
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