す》ぐに、ぶら/\と、いつもの鼻唄かなんかでの。」
「爺さんの鼻唄か、はつはつはつは。」
「ほつほつほ……。」
「ばか云ふもんでねえ。おどけでも地獄へおちるなんて、かわいさうによ。……あゝあ……なむあみだぶつ、なむあみだぶつ。」
「道を間違はつしやらねえやうに、せつせと鉦を叩けや!」
 チン! カン! ボン!
「もつと、がつとに!」
 チーン! カーン! ボーン!
「だつて、そんな話が出るたんびに、爺さんな、いつも云つてゐさしたつけよ。『極楽なんて真平だ。』つて。『年百年中、蓮《はす》のうてなとやらの上に、お行儀よくかしこまつて坐りこんでゐるなんて、俺がやうながさつ者にや、とても勤まるめえ。』つてよ。」
「爺さんの云ひさうなこんだ。」
「そして、云ふことが面白え、『俺、これで大した悪《わる》働いてゐねえから、どつちみち、大した苦患《くげん》に遇《あ》ふこともあるめえ。それどころか、地獄にや、ほれ、でつけえ人煮る釜《かま》があるつてこんだから、俺がやうな薪割稼業《まきわりかげふ》は案外調法がられめえもんでもねえ。』ツてんだ。」
「はゝゝ、そんなら、爺さんな、あの世へ行つてからも、薪割でお
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