なら、俺も、こんな日に死にてえもんだ!」
「はゝゝゝ、我家の婆さんが、何を云はつしやることやら。縁起《えんぎ》でもねえ、……しかし、婆さんや、お迎が来たら、そんな、あとの心配なんかしねえで、いつでも心持よう行つてくらつしやい、や。どんな風雨の時だつて、俺、お前のこと半焼のまゝになんかして置かねえから、の。」
「さうだとも、さうだとも。」
「みんな、そんな話し、もう止《や》めさつしやい。信じんが何よりだ。後生《ごしやう》さへ願つてゐれば、それでいゝんだつてこんだ。……なむあみだぶ、なむあみだぶ。」
 少し離れたところで、「あゝあゝ」と大きなあくびをしたものがあつた。と思ふと、また、それより別なところで、「はつはつは」と大笑ひした者があつた。
「おどけ者の與平次爺さんが居なくなつたんで急に村が淋《さび》しくなるこんだらう。」
「いつも、馬鹿ばつか云つて、みんなを笑はしてゐさしたつけが、ほんに、あんな頓智《とんち》のいゝ人つてあつたもんでねえ。」
「さう云や、先だつても、飛んだ可笑《をかし》なことを云つてゐさしたつけよ。だしぬけに、『死なば今だ。』つて云はつしやるんだ。『どうして、え?』つて訊《き》くと、真面目《まじめ》な顔で、M(村の名)の勇助――ほれ、この春、死んだ歌唄ひさ。――あれが、現今《いま》、閻魔《えんま》の座に直つてゐるからだつてんだ。」
 ところ/\で、笑声が起つた。
「それは、また、どうした訳かつて訊くと、」同じ人が、調子づいて続けた。「閻魔の前で、勇助が前の世で歌唄ひを渡世にしてゐましたつていふと、それでは一つ唄つて聞せろつてことになつたんだ相だね。すると勇助の奴《やつ》、いつもの癖で、ちよいと恐入《おそれい》つたやうに頭を掻《か》いて、その実、大得意で勿体ぶつて、へつへつへつと笑つた相だ。そして、場所柄もわきめえねえつて酷《ひど》く叱《しか》られたつていふね。それでも、勇助が、『なんぼなんでも、裸体《はだか》では唄へません。』つていふと、それぢやつていふんで、閻魔が自分の着てゐた衣物《きもの》を脱《ぬ》いで勇助に着せたんだ相だ。ところが、ちやうどそこへ鬼共がどや/\とやつて来て、間違つて、裸体の閻魔を物も云はせねえで引立て行つてしまつたんだ相だ。」
「なあるほど、それで、そのまゝ、あの勇助|奴《め》が閻魔様つてわけだね。」
「はゝゝゝ、これは面白えや
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