はいささかの凸凹もない。譬《たと》えば、ちょうど、大海原のようである。そしてその黄色な稲の海の中に、村々の森、町々の白堊《はくあ》がさながら数限りもなく点散している島嶼《とうしょ》の群のようにも見られるのであった。
彼は、ついこの三週ほど前に父の用のために、向うに青く見えているかの小山脈の麓にあるT村という所へ行った事があった。父の村からそこまでは八里ばかりもあろうか、が、汽車や汽船の便もないので人力車で乗り通した。みちみち注意してゆくと、半里に一村、二三里に一村と云った工合であった。この地方は一帯に非常に細かく耕し尽されているので、ほとんど一尺四方の遊ばせてある土地も見られないのである。云わば、地表がまったく少しの隙間もなく穀物と野菜と果樹とで被《おお》われていると云っても良いのである。それがために道にするだけの土地も惜まれ、はなはだしきは、田の中に挟まれた小部落のごときは道らしい道も通うて居らず、それで、急病人があって医者を招んでも医者が車で駆けつける訳にゆかないような所さえあるのである。
一村に三四軒位ずつちょっとした地主がある。そして三ヶ村に一軒位の割で、とてつ[#「とてつ
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