密でもあって、そしてそれは自分達には打明けられないような種類の事で、それがために一人で思い悩んでいるのに相違ないと思うた。それに対して房子は、
「そんな事ではないと思うわ。……兄さんには、お友達から来る手紙が何よりの楽みなんですよ。それで、それが待ち遠でならないんでしょう。きっと。……だから、兄さんの方からもよく手紙をお出しになることよ。」
事もなげに、こんなふうに云うのであった。
母は、また、東京に「おんな」でもあるのではないか、とも思うのであった。しかし、そんな事はもちろん自分の胸だけのはなしで、口に出して云うような事は誰にもしなかった。それから、もう一つ、彼女が庸介について不審にも思い、かつははがゆく[#「はがゆく」に傍点]不満でならなかったのは、彼が、もうそろそろ何か、例えば読書のような事なり、またその他の何なりをやり出してもいいのだ。という事であった。この第二の事では、彼の父もまたまったく同感であった。しかし、今はまだ、そんな事を彼に云う時ではないと思うていた。
ある日、庸介が自分の部屋の涼しい縁側の所へ籐《とう》で組んだ寝椅子を持ち出して、その上で午睡に陥っていた時、
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