。また、ある時、学校の倫理の教室で、あの温良な、年老いた先生は次のように云われた事があった。
「人間はいかなる場合に立到っても決して迷う事をしてはいけません。絶望するという事があってはいけません。常に『限りなき前途』という事を考えるのです。――否、そう云ってはかえって解らなくなるかも知れません。まあ、こう云いましょう。あなた方一人々々について考えてごらんなさい。――例えば将来に、立派な人の妻になる時の事を考えるのです。そう願うのです。もしまた、不幸にして自分の夫となった人が邪《よこしま》な人間である事を見出した場合には、自分の純白な心をもって、それを何とかして正しい道に導き入れてやろうと思うてみるのです。そういう風にして立派な勇気を養うのです。……それから、やがて二人の間に生れて来る自分達の子供の事について考えてごらんなさい。さて、その子供というものはまあ、何と云ったら良いのでしょう、それは、どんな子供でも遣《や》り方《かた》一つでどんな立派な人間にならないとも限らないのです。……この点です。もしも、万一、あなた方が自分自身に望みを失うような事があった場合か、もしくは本当に美しい謙遜な
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