こに巾の狭い木橋が架《かか》っていた。そこからほど遠からぬところに、さほど広くもないが年中びしょびしょ[#「びしょびしょ」に傍点]している一つの荒地のあった事を思い出したので、彼はそれを目あてに歩いて行った。その場所は、今はだいぶすでに開墾されて立派な畑地になっていた。それでも残余の部分には、一面に雑草が繁り合い、所々に短かい葦などが生えていたりして、どこかにまだ昔の面影が忍ばれた。赤のまんま[#「赤のまんま」に傍点]や、金ぽうげ[#「金ぽうげ」に傍点]などが昔のまゝに多くそこに認められた。
彼は、そこに大きな柳の樹が一本あった事を忘れる事ができなかった。が、それはもう見られなかった。その柳の樹には、彼が幼年時代のもっとも鮮《あざや》かな思い出の一つが宿されていた。それは、歳月とともに次第に薄らぎ滅びてゆく過去の多くの記憶の中に、それのみは独ります/\生々と光を増して来るような種類のものであった。
――彼は、まだ九歳か十歳であった。春の日のある暮れ方二三の遊び友達と遊んだあとで何かつまらない落し物を探していた。その時はそこに自分一人だけであった。と、ふと[#「ふと」に傍点]した機《
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