は漱石さんは感謝さるべきであると信じます。
『夏目と同じ英文学の研究者の所から、夏目が失脚すればその地位(!)が自然自分のところにまはつて来るといふので(!)たいした症状もないのにこんな奸策(!)をめぐらしたのだ(!)彼奴は(!)怪しからん奴だ(!)などゝ憤懣の口調を洩してゐたことがありました』『改造』正月号三十ぺージの一段は私にとり意外千万で、今日迄全く思ひもかけなかつた次第であります。
 所謂奸策[#「奸策」に傍点]とは『文部省とかへ打電云々』を指してるのはお言葉の前後から正当に推量されますが、驚き入つた次第です。一私人が文部省に打電云々は前述の如く私自身が発狂せぬ限はあり得ません。もし文部省へでは無い、一官人か一私人かに打電したとなら果して誰に対してですか。甚だケチなことを申すやうでお恥しい次第ですが、懐中乏しい当時の一私費生は(眼前フランス行を決定して居つて)当時ロンドンから日本へ『一文部省留学生が精神病にかゝつた』と発電する余裕は御座いませんでした。一日も早くと消息を聞きたがつてゐる父や母や妻にも『フランス着』の電報を発したのではありませんでした。
 九月十八日夏目さんの宿を
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